正式には「御所」は、天皇のお住まいであった禁裏を指しており、禁裏を囲んでいる緑地を「京都御苑」というようです。
でも、京都では一般的に、禁裏周辺の木々の植わった広い緑地も含めて「御所」と言います。
明治維新までは、禁裏の周りは宮宅と公家のお屋敷が取り囲んでいましたが、明治になって、公家達は東京に移り住んで、取り残されたお屋敷が荒廃したため、これを撤去し整備して木々を植えて公園として一般に公開されるようになりました。
私が通った大学が御所の近くにあったことから、授業の合間、御所の中をよく散歩して時間をつぶしたものです。
また、司法試験の受験期間中、試験の答案練習会の終わった後、疲れた頭で御所の中をうろうろしました。
秋の紅葉のシーズンは、御所は隠れた名所です。
広々とした御所の緑地には、一面に赤く染まった紅葉と黄色く色づいた大銀杏がここそこに広がっていて、それは鮮やかです。
緑地は、秋の観光シーズンでもひとけはまばらで、樹々の下の小道をめぐると、紅葉した色とりどりの樹々が天を覆い、木漏れ陽の中を歩くとまるで別世界のようです。
御所の西北にある乾御門から入ると、右手に大銀杏の樹が、斜陽に黄金色に燃え立っています。
昔、よくこの銀杏の樹の下のベンチに腰掛けて、今日のように天に向かって黄色く輝く姿を、ずっと眺めていました。
でも、昔は、この樹はもっと高く、炎の頭のように空に突き出る形でしたが、長い年月のうちに台風などで枝が折れたのか、記憶の中の姿とは少し違っています。
それでも、今も変わらず、雄大で、時間の流れの中で胸を張っている姿に、見とれていました。
この大銀杏から御所の中を南に向かって行くと、そこにも大銀杏があります。
この樹の下をよく歩いたものです。
今回、その樹のそばまで行って、枝々を見上げました。
すると、時間軸が過去に戻って、切ない思いで胸が締め付けられるようでした。
昔の自分が近くにいるようでした。
そして、思わず、けなげに弁護士をめざして勉強をしている自分に、そのままで良いんだよ、とエールを送りました。